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  • Kimura lab @ NCU

大学院生へ1:院生の時に多数の論文を書かないとだめ?

更新日:2022年7月16日

博士課程後期での経済的支援である「学振DC」を獲得するためには修士の間に論文が出ていることが重要です。また、「学生の間に論文xx報書いた!」という情報も流れてきたりします。しかし、これは研究分野にも依存することで、短期間にたくさんの論文を書く事は生命科学系では難しいことがあります。(それを達成している研究室もありますが。)


昔から、「生命科学系は、工学系に比べて全然論文がでないがどういうことか?」と言われることがよくありました。最近機械系やデータ科学系の方と共同研究しているので、なぜそのような違いが出るかが分かるようになりました。 なぜ生命科学系で時間が掛かるケースがあるかというと、理想的には「新しい生命現象の発見→その現象を正確に記述できる実験系の確立→さまざまな対照実験を入れて現象の測定→現象の背後にあるメカニズムの仮説→仮説検証のための実験系の確立→仮説が証明されなかったら、2コマ戻る→仮説が証明されて論文投稿→何件かめぐった末にreviewに回ってコメントが山のように帰ってくる→頑張ってコメントに応えて再投稿→晴れて論文受理!」という長いプロセスを経る必要があるためです。


後半は他の分野ともだいたい同じなのですが、「現象の発見→実験系の確立」という最初の2つが場合によっては年単位で時間が掛かるのです。そもそも「育つ」のに時間が掛かる場合は、最適な条件を求めて試行錯誤するのも大変ですし。 「取りあえず修士号が欲しいです」という学生にはもちろん短期的なテーマを提供します。しかし「博士号を取って研究者になりたい」という学生さんには、可能であればこのプロセス全体を経験して欲しいと思っています。もちろん、ガチで全部やろうと思ったら10年単位のスパンになってしまうので、短縮版にはなります。それでも「2−3年で論文」ということは難しいことがご理解いただければありがたいです。 「学生にそれを求める?」というご意見もあるかも知れません。しかし、学部4年生で研究室に配属されれば、D3で卒業するまで6年あることになります。一方で、ポスドクですと日本の雇用や資金の制度から、多くの場合4年以下になってしまいます。しかも、ポスドクの場合はホームラン級の業績(さらにソロホームランよりは満塁ホームランが望ましい)が必要になりますので、ゼロから実験系を立上げるのはリスクが高いです。 一方、学生の場合は2塁打程度でも「研究室環境のせいだったかもしれない」と大目に見てもらえます(国際的に;逆に満塁ホームランでも「研究室が良かっただけでは?」と思われることもあります)。なので、少々リスクがあるプロジェクトでも取り組むことができます。なお、助教以上になると若手の指導や教育・運営の仕事が入ってきますので、研究には専念できません。 すなわち、学部4年生や修士1年でゼロから研究を始めるということは、リスクの高いテーマに対して時間を掛けて取り組み、うまくいけば研究の一部始終を体験できる、非常に良い側面があるので、可能であればそれを体験して欲しいのです。 もちろん、色々な形の研究があります。私が上に書いた「プロセス」は生命科学系の研究者の方でも違う考えを持っていらっしゃるでしょう。例えば、研究室に入ってきた時に「この重要な問題は解けていないが、この実験とこの実験を組み合せれば、答を出すことができる」という方針が明確に決まっていた院生が3年くらいでtop journalに論文を出していった、という話はちらほら聞いた事があります。 ただ、最初は何が何だか分からないが、研究を進めることで「こういうことだったのか〜!」となることが基礎研究の醍醐味であるとも思います。実際、米国の神経科学を代表するC. エレガンス研究者のCori Bargmann博士に「研究って最初はどこに行くか全然分からないわよね」と言われたこともあります。 長くなりましたが、最初の話題に戻ると、上記のプロセスでいうと修士の間は「実験系の確立」が終わるか終わらないか、というあたりですので、「研究者をめざす学生こそ学振DCが取り辛い」という矛盾を経験することも少なくありません。若い時は「採択された/されない」が響きやすい(年をとると採択されないことに慣れてくる)ので、そのあたりの事情も考慮していただけると有り難いです。 とはいえ、読み直して、「それは古き良き時代の話。現在はそれでは通用しない」あるいは「そこを含めてボスの力量」なのかな、と自問自答中です。。。(なお、当研究室は長期熟成コースも短期促成栽培コースも用意しています。念のため。)


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