名市大・分野横断型研究グループ構想
「生命〜社会〜天体」を
測って、分析して、理解する
代表者:木村幸太郎(名古屋市立大学理学研究科)

何を目指すのか?
本学の規模は、各教員の活動が目に見える程度にコンパクトでありながら、研究の範囲は多様です。そこで、研究分野を問わずに「生命(生物・医療)〜社会(医療・人文・経済)〜天体(自然科学)」という異なる分野に対して、「計測と分析」という共通の技術で学内の分野横断型研究グループを形成することにより、新しい視点によるイノベーションの芽を育てたいと考えています。
なぜそれを目指すのか?
私・木村は「脳のはたらき」にずっと興味を持って研究を行っています。特に、単純な神経細胞の活動がネットワーク上に組み合わさることによって複雑な脳機能が創発するメカニズムを明らかにすることが目標です。そのために、わずか200個弱の神経細胞から「脳」が構成される線虫C. エレガンスを実験対象として、脳活動や脳活動の出力である行動を計測してきました。その過程で、工学の専門家との共同研究としてロボット顕微鏡を開発したり、データ科学の専門家と時系列パターンの解析方法を開発したり、自分たち自身で深層学習を用いた三次元画像処理の手法を開発したりしてきました。
それらの共同研究において、さまざまな分野で計測や分析の専門家が直面する課題はとても似ていること、またある分野の問題は別の分野の一般的な知識で解決できること、しかし異分野の研究交流は未だに困難であること、などを目の当たりにしてきました。
そこで、本学内に「計測と分析」に関して研究者が気楽に集まれる「場」を作り、知恵を出し合い、名市大ならではの研究の創出を目指すことにしました。
具体的な戦略
異分野融合研究を支援するために、若手教員や大学院生を主な対象として以下のような活動を計画しています。
(1) ロードマップ
初年度目(2025年度)は、グループとしての結びつきを固めます。具体的には、1-2カ月毎にミーティングを行い、誰がどのような研究を行っているか、誰がどのような技術を持っているかという知識をリラックスした雰囲気の中で共有し、醸成させます。また、これらの議論から産まれた共同研究を始めます。
2年度目は、国内外からゲストを招いて、より広く深い知識を得るとともに、初年度に開始した共同研究を発展させます。
3年度目は、これまでに行ってきた共同研究から得られた成果を発信します。
(2) 「学びの場」の提供
本グループでは、ハードウェアとしての支援は想定せず、主にソフトウェア的な支援を想定しています。測定や分析に必要な知識や技術を必要に応じて提供するのは当然ですが、その他にも以下のような「学びの場」の提供を行います。
・弟子入り:週単位、月単位で別の研究室に滞在し、さまざまなノウハウを吸収します。
・講習会:同じような知識を必要とする研究者が複数名いる場合は、講習会を開催し、より多くの人々に機会提供します。
・キャラバン:必要であれば、いずれかのキャンパスや病院を訪問して、そこで必要とされている知識を提供します。
(3) 国際交流支援
国際交流の原点は会うことです。しかし、コロナ禍以降は航空運賃が高騰してしまい、簡単に渡航(特に欧米)することが困難になってしまいました。このグループとして研究費が獲得できた際には、できる限り海外渡航費を重点的に支援したいと考えています。
現在までの参加予定者
私たちは、次年度開始分の卓越研究グループ申請を目指しています。生命、社会、天体のそれぞれの分野でご参加ご希望の方は、木村までご連絡下さい。
【生命】
木村幸太郎(理学研究科)
計測:高速三次元イメージングによる全脳神経活動計測と深層学習による三次元細胞追跡 (Wen et al., eLife 2021; Voleti et al., Nat. Meth 2019)
分析:漏れ積分モデルによる線虫の「意思決定」およびその遺伝子基盤の発見 (Tanimoto et al., eLife 2017)
【社会】
【天体】
秦和弘(理学研究科)
計測:電波干渉計による巨大ブラックホールおよび宇宙ジェットの高解像度イメージングと運動計測 (Liu et al., Nature 2023; Cui et al., Nature 2023)
三浦均(理学研究科)
分析:小惑星リュウグウがかつて彗星であった可能性を理論的に指摘 (Miura et al., Astrophys J 2022), 隕石に含まれる急冷凝固組織形成過程のフェーズフィールド・シミュレーション (Miura, Materialia 2023)