
研究室の目標
知覚・記憶・判断・感情といった「脳のはたらき」は、神経細胞のネットワークからどのようにして生ずるのか?
この問いに答えるために、遺伝学・イメージング・ロボット顕微鏡・データ駆動型解析などさまざまな手法を用いながら、最もシンプルな脳を持つ線虫C. エレガンスを研究しています。
特に最近は、C. エレガンスで開発した人工知能技術でのデジタルトランスフォーメーションによって、行動や脳活動などのビッグデータから重要な情報を抽出する "brain DX" を行っています。(Yamazaki et al., Front Neurosci 2019, Maekawa et al., Nat Commun 2020, Wen and Kimura, Jpn J Appl Phys 2020, Wen et al., eLife 2021, Maekawa et al., Nat Commun 2021, Wen et al., Sci Rep 2023)
研究室の戦略と技術
「脳のはたらき」を理解するためには、脳がどのような刺激を受け取り、どのような応答行動を引き起こし、またそれらをつなぐ神経細胞達の活動がどのようであったか、を理解しなければなりません。
我々は、この「刺激〜神経活動〜行動」の関連を理解するために、共同研究者の協力を得て、ロボット技術や機械学習を用いた世界最先端レベルの研究手法を開発しています。
・揮発と拡散によって形成される匂い勾配継時変化の測定 Yamazoe-Umemoto et al., Bio-protocol 2018
・仮想匂い勾配を移動するC. エレガンスの行動と神経活動のロボット顕微鏡による同時計測 Tanimoto et al., eLife 2017, Tanimoto & Kimura, Bio-protocol 2021
・自由に移動行動するC. エレガンスの「狙い撃ち介入」による神経活動の制御 Tanimoto et al., Sci Rep 2016 (この研究のビデオが、2021年9月9日 NHK-BS「ヒューマニエンス」で紹介されました。関連ツイートはこちら。)
・機械学習技術による動物行動の分析 Yamazaki et al., Front Neurosci 2019, Maekawa et al., Nat Commun 2020, Maekawa et al., Nat Commun 2021(Yamazaki et al.,2019 の異分野融合研究が、2021年8月18日の Nature Index で紹介されました。)
・深層学習を用いた三次元細胞追跡技術による全脳細胞活動イメージング Wen et al., eLife 2021, Voleti et al., Nat Meth 2019
・機械学習による全脳活動パターンの解読 Wen and Kimura, Jpn J Appl Phys 2020
・数理モデルによる神経活動制御メカニズムの推定 Ikejiri et al., Neurosci Res 2022, Tanimoto et al., eLife 2017
・人工知能技術と組み合せて細胞領域を効率良く確定するためのソフトウェアの開発 Wen et al., Sci Rep 2023
研究室の成果
上記の手法などを用いて、高等動物に共通するさまざまな「脳のはたらきの原理」を発見しています。
・ドーパミンによって増強される匂い学習 Kimura et al., J Neurosci 2010
・神経ペプチドは記憶の獲得に、ドーパミンは記憶の実行に関与 Yamazoe-Umemoto et al., NSR 2015
・解剖学的に対称なドーパミン細胞の非対称的な機能 Tanimoto et al., Sci Rep 2016
・意思決定のための細胞および分子メカニズム Tanimoto et al., eLife 2017
・経験依存的な二階微分項の消去による神経活動および行動の変化 Ikejiri et al., Neurosci Res 2022
木村の全業績は以下をご覧下さい:Google Scholar, Web of Science, Researchmap
共同研究先
研究の発展、および大学院生の教育のため、国内外のさまざまな研究機関と共同研究を行っています。
国外:Columbia University(米国)、University of Edinburg (英国) など
国内:大阪大学、名古屋大学、名古屋工業大学、東北大学、生理学研究所、基礎生物学研究所、理化学研究所 など
研究室の教育
古典的な神経科学の知識から最先端の技術までを効率良く身に付け、世界で活躍できる研究者になるために、以下の機会を設けています。
・英語でのlab meetingとjournal club
・神経科学教科書 Neuroscience (Purves et al., Sinauer) の輪読(←大変好評です)
・基礎〜先端にいたる顕微鏡技術や生命科学のためのデータ科学技術の概要の講義(大学院講義と連携)
・分子遺伝学/イメージング/プログラミング/電子回路操作など、多様な手法を含む研究テーマの提供
・定期的な個人ミーティング
・明確な方針に基づいた口頭および文章発表手法の指導
・コラボレーションアプリの利用などによる徹底的な研究室内情報共有
・国内外の生命科学分野/ロボット工学/データ科学の研究者や、関連企業との速やかな連携
研究室メンバーの募集
高等動物にも共通する「知覚・記憶・判断・感情」などが神経細胞のネットワークから生ずる仕組みを、シンプルなC. エレガンスを研究対象として、あなたのオリジナルな視点から明らかにしてみませんか? 当研究室で研究および学習を行うことによって、ロボット顕微鏡・全脳イメージング・行動や神経活動の機械学習(=「人工知能」)解析など最先端の手法を身に付け、脳・神経科学に関して普遍的な議論できるようになります。当研究室では、アカデミアと企業のどちらに進むことも応援しています。詳しくは「参加希望」のページをご覧下さい。
最新情報(過去の情報はこちら)
2023/5/22
三次元画像データ処理のために、U-Netのような人工知能技術と組み合せて効率良く細胞の領域を確定するためのソフトウェア "Seg2Link"を発表しました。理研BDRに異動したWen元研究員による、本学医学研究科・澤本教授グループとの共同研究の成果です。[論文][プレスリリース][解説ツイート]
2023/5/14
2月に発表した池尻の論文をきっかけに、本研究室の活動が日本経済新聞に掲載されました。
2023/4/15
木村が、脳の医学・生物学研究会で講演しました。
2023/2/1
線虫の匂い受容ニューロンが嫌いな匂いを経験すると「ゲイン調節」として活動パターンが変わるのですが、数理モデルで解析したことで、この変化は「匂い濃度の2階微分項の消去」だけで説明できること、またこの「項の消去」に関わるであろう遺伝子も明らかにしました。「生物移動情報学」でご一緒した弘前大の岩谷靖先生、および木村が阪大でラボを持った時のお隣さんだった藤本仰一先生との共同研究による大学院生池尻の研究成果です。[論文][プレスリリース][解説ツイート][日経での記事]
2023/1/11
木村が、名古屋市立大学脳神経科学研究所IBSセミナーで講演しました。
2022/12/12
木村が、ExCELLSシンポジウムのミニセッションで講演しました。
2022/10/7
「動き回る線虫を自動的に追跡しながら超高速で三次元イメージングする顕微鏡」のための国際共同研究費を獲得しました。[リンク]
2022/10/1
新しく学部学生が3人加わりました。
2022/8/8
木村が、東京大学総合文化研究科の学部学生および大学院生に向けて、集中講義「モデル生物を再定義する 2022」を行いました。
2022/4/15
順天堂大学大学院医学研究科の洲崎悦生教授にお招き頂き、研究室見学&セミナーさせて頂きました。
2022/3/31
5年間、超級博士研究員として当研究室にDXをもたらしてくれたWen Chentao博士が、理研のSPDRとして神戸に異動しました。今まで本当にありがとう。これからもよろしく。
2021/12/13
大阪大学蛋白質研究所セミナー「多様なドーパミン神経伝達から脳を探る」で、木村が招待講演しました。[リンク]
2021/10/1
新しい学部学生が加わって、全部で13人のグループになりました。
2021/9/17
大阪大学情報科学の前川卓也准教授との新たな共同研究:深層学習の「注目 (attention)」機構を用いて、ドーパミン伝達が異常なヒト(パーキンソン病患者)、マウス、甲虫、線虫に進化を越えて共通する行動異常を発見しました。[リンク]
2021/9/9
NHK-BS 「ヒューマニエンス」で、Tanimoto, Zheng et al. (Sci Rep 2016) の研究成果が紹介されました。[リンク][関連ツイート]
2021/8/20
実験医学9月号に、Wenと木村の記事「クローズアップ実験法/自動細胞追跡ツール:3DeeCellTrackerで解析できることと使い方」が掲載されました。[リンク]
2021/8/18
Yamazaki et al., 2019 を実現した異分野融合研究に関する記事が、Nature indexで紹介されました。[リンク]
2021/6/22-24
23rd International C. elegans Conference (Zoom meeting)で、Wen、池尻、Tee、遠藤が発表しました。特にTeeは、1,200件の発表中わずか144件の口頭発表に選ばれました(日本から唯一)。
2021/3/30
博士研究員のWenが人工知能(深層学習)技術を用いて開発した、三次元ビデオ中の数多くの細胞を自動的に追跡するソフトウェア 3DeeCellTracker の論文が、eLifeに掲載されました。国際共同研究などとして、線虫の脳活動や、小型熱帯魚の心臓の拍動や、三次元培養されたガン細胞の活動を非常に効率良く計測しました。[論文][日本語紹介記事]
2021/3/23
京都大学 MACS 「データ駆動生物学ワークショップ」で、木村とWenが招待講演しました。[リンク]
2021/1/5
匂い濃度の変化を顕微鏡下で正確に制御する技術をBio-protocolに発表しました。わずかな匂い濃度を微小な環境で正確に変化させることは困難で、我々はさまざまな技術の積み重ねで達成しました。[リンク]
2020/12/14
木村が、実験医学増刊「機械学習を生命科学に使う!」で、1章「機械学習による移動行動解析の考え方」を執筆しました。[リンク]
2020/11/13
北海道大学脳科学研究教育センター 第18回シンポジウム「感覚と運動の神経基盤の進化〜非哺乳類脳から学ぶ計算原理〜」で、木村とWenが講演しました。[リンク]
2020/10/21
大阪大学情報科学の前川卓也准教授との共同研究として、動物行動の特徴を発見するための深層学習技術 DeepHL を発表しました。[論文]
2020/10/1
9月から研究補佐員の宮地が、10月から学部3年生の鈴木と丸山が研究室に合流しました。
2020/7/3
10ヶ月、コロナ禍を含む苦楽を共にしたJared Young博士が帰国されました。今後ともyoroshiku onegaishimasu!
2020/3/5
当研究室の博士研究員Wenが、数学的および機械学習的手法による全脳活動の解析に関する英文総説を発表しました。非専門家にも分かり易いように書かれています。[論文]
2020/1/4
木村がNeuroscience Research誌の編集委員になりました。
2019/9/28
米国コロンビア大学Hillman研究室との共同研究が、Nature Methods誌に発表されました。Hillman研究室で開発された超高速三次元顕微鏡からの画像処理に、Wenが開発した深層学習などによる画像処理技術が用いられました。[論文]
2019/9/21
応用物理学会秋季学術講演会シンポジウム「数理がひもとく自然・生命現象と知的計算能力」で、木村が招待講演しました。
2019/9/1
米国Mills CollegeのJared Young准教授がサバティカルで当研究室に滞在することになりました。
2019/7/26
Neuro2019 シンポジウム「データ駆動型/モデル駆動型神経科学研究の幕開け」を木村が主催しました。米国Janelia Research CampusからAlice Robie博士を招待し、講演していただきました。また、当研究室のWen研究員も口頭発表を行いました。
2019/6/28
当研究室の元大学院生山崎と阪大情報科学研究科の前川准教授そして多くの共同研究者との研究成果が、Front Neurosci誌に発表されました。[論文] [ResOU]
