「研究費の獲得額は東大がダントツだから、東大に行かないと研究できないって、ホントですか?」 こういう質問を、高校生や親御さんから受ける事があります。
研究費で最も有名なのは、文部科学省の科学研究費補助金(科研費)ですが、これには理系から文系まで、ありとあらゆる分野の研究費が入っています。他の分野(例えば文学系とか工学系)で研究費を獲得しても直接自分たちの研究に使えるわけではありません。しかも、大学が研究を行うわけではありません。研究費を獲得して研究を行うのは、1つ1つの研究室が単位なのです。従って、それぞれの研究室が獲得できているかが重要です。
具体的には、東大も他の多くの大学と同じように、研究費が獲得できている研究室とあまり獲得できていない研究室があります。その上で、東大は最も規模の大きい国立大学ですから、個々の研究室が平均的な額を獲得していたとしたら大学としての合計値は最大値になる可能性が高いです(もちろん優れた研究室は多いですが)。さらに、「大学としての研究費獲得総額」に影響するのは極端に規模が大きい研究費であり、これは研究員を何人も雇うとか超高額の装置を購入するとかの金額が入ってきます。もちろん、これらのお金があれば総合的に研究環境は向上しますが、では学生としてそういう環境に居るのが良いかといえば、必ずしもそうでは無いようです。
昨年、私の研究室に米国のトップレベルの研究所の研究員が来てくれました。そこにはものすごく潤沢な資金が投入され、動物は専門家が飼育してくれますし、さまざまな解析ソフトもプロのエンジニア達が開発してくれます。「この研究所とは同じ分野では勝負できない」と怖じ気づいてしまうような研究所です。しかし、その方は以下のようにおっしゃいました。「学生はうちの研究所は合わないと思うわ」「え?どうして?あんなに良い論文が出せる環境なのに?」「だって、他人がやってくれるんだもの。私が大学院生の時は、動物飼うのも、実験するのも、解析するのも自分でやったわ。自分でやらないと、学生は成長できないわよ。」(注:なお、この方がいた大学院も米国でトップレベルの大学院です。念のため。)
そういえば、東大のとある研究室の教授の方はいつも「研究費が獲得できない」とぼやいていらっしゃるそうですが、そこからキラ星のごとく何人もの若手の優秀な研究者が巣立っています。
そもそも、お金がかかる研究とお金がかからない研究がありますし、お金がなければ知恵を使えば良いわけです。例えば、Googleがいくら儲かっていても、面白いソフトウェアはGoogle以外のあちこちから産まれているわけですよね。サイエンスも同じです。
研究費は研究を行うための1つの道具に過ぎません。研究費というたった1つの尺度に捕われず、あなた自身の眼で、それぞれの研究室が行っているサイエンスを見て下さい。
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